現在、
新型コロナウイルス感染症に対する漢方製剤が期待されており、日本
感染症学会から金沢大学の小川恵子先生の発表がありました。どのお薬も当クリニックで処方可能です。来院が不安な方や遠方の方など、当クリニックのオンライン診療でも診察と処方が可能です。
漢方薬には免疫システムを活性化し免疫力を上げる働きが報告されています。無症状病原体
保有者の病原体陰性化の促進も期待できます。以下の二つの漢方が有用です。
NK細胞機能が改善され、また抑制系も活性化されることから、過剰な炎症の予防も予想されます
2.軽症から重症までカバー
・清肺排毒湯
幅広い病状に効果が期待できます。当院では軽症の方の重症化予防として、軽い咳や微熱などの
感冒症状がある方に処方しております。
日本のエキス製剤にはありませんが、組み合わせて同様のものを作ることができます。麻杏甘石湯+胃苓湯+
小柴胡湯加桔梗石膏を一緒に服用します。
3.軽症型(肺炎がなく倦怠感のみ)
胃腸の不調を伴う場合 香蘇散+平胃散
発熱を伴う場合に 黄連解毒湯、清上防風湯、荊芥連翹湯
この時期、免疫力向上のため、また、軽い咳や微熱、倦怠感のある時、漢方が治療の助けになると期待されています!
推奨
予防は肝心です。手洗い、うがい、不要不急の外出を
を上げる働きも報告されています。このような働きを
待できます。
予防には、成人 1 日量の 2/3~1 が適すると思いま
す。
自体の産生を促進するとともに、IL-1α と IL-6
の産生を抑制すると報告されています 2)。
よって NK 細胞機能が改善されることが分かっ
ています。また、抑制系も活性化されることか
ら、過剰な炎症の予防も予想されます 3)。
2.清肺排毒湯(軽症、中等症、重症患者)1)
幅広い病態に用いることができます。中国からの
清肺排毒湯は、漢代の張仲景が著した『傷寒雑病
論』にある、風寒邪によって引き起こされる外感熱
本とされています。
基礎方剤:麻黄 9g、炙甘草 6g、杏仁 9g、生石膏 15
~30g(先煎)、桂枝 9g、澤瀉 9g、猪苓 9g、白朮 9g、
茯苓 15g、柴胡 16g、黄芩 6g、姜半夏 9g、生姜 9g、
紫菀 9g、款冬花 9g、射干 9g、細辛 6g、山薬 12g、
枳実 6g、陳皮 6g、藿香 9g。
清肺排毒湯は、日本のエキス製剤にはありませんが、
エキス製剤を組み合わせて同様なものを作ることが
できます。
剤を一緒に服用
70 歳以上は成人 1 日量の 2/3-1/2
本来は、寒飲(寒湿)の咳嗽に効果的な射干、潤
を止める)款冬花は必須と思われるので、エキス
剤での代用は難しいです。乾性咳嗽が多い場合に
は、より滋陰(潤わせること)するために麦門冬
湯を追加する必要がありますし、湿性咳嗽で痰が
喀出しにくい場合には、竹筎温胆湯を追加すると
よいかもしれません。甘草による偽アルドステロ
ン症に注意してください。
3.軽症型
軽症型は、「症状が軽く、画像では肺炎症状が出て
いない。」と定義され、倦怠感が主体です。
①胃腸の不調を伴う場合
藿香正気散(かっこうしょうきさん)
日本のエキス製剤にはありませんが、香蘇散+平
胃散(左 2 剤を一緒に服用)で代用できます
②発熱を伴う場合
う)」と考えて治療します。
金花清感顆粒、連花清瘟 (顆粒)、疏風解毒膠嚢(顆
粒)
これらもエキス製剤にありませんが、黄連解毒湯、
もしくは清上防風湯、もしくは荊芥連翹湯、もし
くはこれらの組み合わせで代用することができま
す。
③悪寒を伴う場合(日本漢方の考え方)
中国では、日本ほどには葛根湯などの麻黄剤が感
染初期には用いられないようですが、寒湿邪によ
る病態と考えると、下記が日本人の病態にはあっ
ていると思われます。
エキス剤:
通常は健康な成人や小児 葛根湯
高齢者や倦怠感が強い患者は麻黄附子細辛湯
葛根湯は、インターロイキン 1a の産生を抑えた
り、インターロイキン 12 を産生することにより
過剰な肺炎を防ぐ可能性が期待されています 4,5)。
主体と言われています。興味深いことに、中国で
はこの症状の報告はそれほど多くありません。武
漢のある病院の症例数研究では、214 例の入院患
者のうち、11 例が嗅覚障害(5.1%)、12 例が味
覚障害(5.6%)でした 6)。一方、ドイツでは
PCR
陽性患者の 2/3 に、韓国では 30%に嗅覚・味覚障
害が出現したとされています 7)。日本での頻度は
まだわかっていませんが、この症状だけの軽症例
障害がおこることがありますが、その際には点鼻
を悪化させる可能性が示唆されており、イギリス
嗅神経は他の中枢神経とは異なり、嗅上皮のタ
ーンオーバーにより嗅細胞も再生脱落を繰り返す
ため、神経性の障害であっても嗅細胞再生促進に
より機能改善の可能性がある感覚器です。嗅細胞
factor: NGF)が関与することが
動物実験で証明さ
が NGF を増加させることが報告されています
9,10)。つまり、症状が軽快すれば改善すると考えら
や深くウイルスが入り込むことによっておこると
考えられ、風邪(ふうじゃ)と考察されます。こ
の状態には、風寒邪に対応する葛根湯がよいと思
われ、解熱後の神経再生には人参養栄湯や当帰芍
薬散が適すると考えられます。
られますので、同様に考察してよいと考えられま
す。
普通型の軽症の場合
(1) 寒湿鬱肺(寒湿という邪で肺機能が低下する)
臨床症状:発熱、倦怠感、筋肉痛、咳嗽、痰、胸の不
快感、消化不良、食欲不振、吐気、嘔吐、排便の不快
感。舌質は淡紅(ほぼ正常な色)、 腫大歯痕があり、
苔は白厚膩(厚くペンキを塗ったような苔) 。
処方:生麻黄 6g、生石膏 15g、杏仁 9g、羌活 15g、
葶藶子 15g、貫衆 9g、地龍 15g、徐長卿 15g、藿香
15g、佩藍 9g、蒼朮 15g、雲苓 45g、生白朮 30g、焦
三仙各 9g、厚朴 15g、焦檳榔 9g、煨草菓 9g、生姜 15g
エキス剤の場合
麻杏甘石湯+参蘇飲+平胃散 左 3 剤を一緒に服用
消化器症状が無いか軽度ならば、越婢加朮湯+麻黄
湯(大青龍湯の方意)左 2 剤を一緒に服用
(2) 湿熱蘊肺(湿熱という邪で肺機能が滞る)
臨床症状:微熱あるいは無熱、微冷感、倦怠感、頭が
重い、筋肉痛、渇いた咳、痰少なく、喉の痛み、口の
渇き、胸の不快、無汗か汗が出づらい、吐き気、食欲
不振、食欲不良、便が緩くもしくは粘りがあり出にく
く不快感を伴う。舌は淡紅、舌苔は白厚膩 または薄
黄。脈は滑数または濡。
推奨処方:
檳榔 10g 、草 果 10g 、厚朴 10g 、知母
推薦される処方:檳榔 10g、草菓 10g、厚朴 10g、知
母 10g、黄芩 10g、柴胡 10g、赤芍 10g、連翹 15g、
青蒿 10g(後下)、蒼朮 10g、大青葉 10g、生甘草 5g。
エキス剤の場合
荊芥連翹湯+半夏厚朴湯 左 2 剤を一緒に服用
消化器症状が強ければ、柴苓湯+平胃散 左 2 剤を
一緒に服用
5.普通型の重症の場合
(1) 湿毒鬱肺症(重度の湿邪により肺機能が低下)
臨床症状:発熱、咳をするが痰が少ない、あるいは痰
が黄色い、呼吸困難、腹満、便秘などを伴う。舌は暗
赤色、腫大、舌苔は黄膩または黄燥。脈は滑数脈或い
は弦滑。
処方提案:生麻黄 6g、苦杏仁 15g、生石膏 30g、生薏
苡仁 30g、茅蒼朮 10g、広藿香 15g、青蒿草 12g、虎
杖 20g、馬鞭草 30g、乾芦根 30g、葶藶子 15g、化橘
紅 15g、生甘草 10g。
エキス剤の場合
麻杏甘石湯+竹筎温胆湯+ヨクイニン 左 3 剤を一
緒に服用
便秘がある場合には、上記 3 剤+大黄甘草湯
(2) 寒湿阻肺症(寒と湿が結びついたことにより、肺
機能が低下)
臨床症状:微熱、身熱不揚(つよい熱感があるが体表
部には甚だしい熱がない)或いは熱はない、空咳、痰
が少ない、倦怠感、胸が苦しい、胃の膨満感と不快感、
或いは吐き気がする、下痢便。舌質は淡紅、舌苔は白
または白膩、脈は濡。
処方提案:蒼朮 15g、陳皮 10g、厚朴 10g、藿香 10g、
草果 6g、生麻黄 6g、羌活 10g、生姜 10g、檳榔 10g。
エキス剤の場合
五積散(通常の倍量を用いる)
6.重症型
(1) 疫毒閉肺症(病邪が肺機能を非常に損なっている)
臨床症状:発熱、赤面、咳をする、痰が黄色く、粘り
気で少ない、或いは痰が血を伴う、呼吸が苦しい、精
神が倦怠、口が乾き、苦く、粘り気がある、吐き気で
食欲がない、便秘、尿の量が少なく、色は深い黄色も
しくは赤みを帯びている。舌は赤、苔が黄膩、脈が滑
脈、数脈。
処方提案:生麻黄6g、杏仁9g、生石膏 15g、甘草 3g、
藿香 10g(後に入れる)、厚朴 10g、蒼朮 15g、草果
10g、法半夏9g、茯苓 15g、生大黄 5g(後に入れる)、
生黄耆 10g、葶藶子 10g、赤芍 10g。
エキス剤の場合
麻杏甘石湯+五積散+大承気湯 左 3 剤を一緒に服
用
吸痰困難の場合 竹茹温胆湯+柴陥湯 左 2 剤を一
緒に服用
(2) 気営両燔症(気と血の機能が損なわれて正常に機
能しなくなる)
臨床症状:病状が長引くことにより、異常に喉が渇き、
水を頻繁に飲みたくなる。呼吸が促迫、意識が朦朧と
し、あることないことを言う視物錯瞀(物が見えにく
い)、或は発疹、或いは吐血、衄血(鼻出血)、ある
いは四肢抽搐(手足がふるえる)、舌が絳色、舌苔が
少ないあるいは苔がない、脈が沈、細、数、あるいは
浮、大、数。
処方提案:生石膏 30~60g(先に煎じる)、知母(ち
も)30g、生地 30~60g 水
牛角 30g(先に煎じる) 赤
芍 30g 玄参 30g 連翹 15g 牡丹皮 15g 黄連 6g 竹葉
12g 葶藶子 15g 生甘草 6g
エキス剤の場合
荊芥連翹湯+滋陰降火湯+桔梗石膏 左 3 剤を一緒
に服用
(1) 内閉外脱症
臨床症状:呼吸困難、頻繁に喘息或いは呼吸医療設備
に頼らなければならない。神志昏昧、煩躁(いらいら
する)、汗出肢冷(汗が出る、四肢が冷える)、舌質
が紫暗(紫で暗い)、舌苔が厚膩あるいは乾燥、脈が
浮、大、無根。
処方提案:
朝鮮人参 15g、黒順片(附子)(先に煎じ
用する。
エキス剤の場合
竹茹温胆湯+柴陥湯 左 2 剤を一緒に服用
腹満・便秘・煩躁を伴う場合 大承気湯
テージの最終段階に当たり、ショック状態のことです。
臨床症状:寒気(場合によっては暑がる)、重度の倦
怠感、手足の冷え、下痢、脈は沈無力
エキス剤の場合
茯苓四逆湯(真武湯+人参湯+附子末)
オミクロン株に「葛根湯+
小柴胡湯加桔梗石膏」が有用な可能性!
当院では2022年1月11日以降、
新型コロナウイルス(
SARS-
CoV-2)の
PCR検査陽性者が急増し、オミクロン株の流行を実感している旨、前回のコラム(症状別・
気管支喘息に使う
漢方薬の選び方)で少し触れました。ここ1週間での知見をまとめましたので、読者の先生方のご参考になればと思い、急きょ担当編集者の方に無理を言って記事にしていただきました。
経口抗ウイルス薬が特別に承認されたとはいえ、オミクロン株への効果が限定的な可能性があり、加えて小児や妊婦さん、授乳中の方には使用できません。急激な感染拡大が見られる今、発症早期からすぐに(
PCR結果を待つことなく)開始できる
漢方薬は、有用性がますます高まっていると私は考えています。
当院では約2年にわたって発熱外来を実施しており、多数の
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者さんを診察してきました。これまでの経験から、デルタ株までとオミクロン株とでは、
漢方薬治療の感受性が大きく異なることを、この1週間の経験で明確に実感しています。
あくまでも一開業医の少数のデータではありますが、柴葛解肌湯(さいかつげきとう)、すなわち葛根湯(かっこんとう)と
小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうききょうせっこう)の併用によって、約85%の症例で投与後24時間以内に解熱し、症状が軽快しました。これから数週間は続くであろう大波を乗り切るためにも、新型コロナを疑いながら解熱鎮痛薬のみを処方するのではなく、ぜひ
漢方薬による治療も検討していただければと考え、当院でのデータを共有いたします。
東北大学大学院から驚きの研究結果が。なんとコロナに漢方が効くというのだ。
そこで今回は漢方に詳しい医師におすすめの飲み方を教えてもらった。
自宅療養に備え、早速チェックしよう!
漢方薬の葛根湯と
小柴胡湯加桔梗石膏を1日3回、発症から4日以内に服用した患者は、
通常治療グループの患者より回復が早く、呼吸不全になるリスクを下げたという結果を発表しました」(医療ジャーナリスト)
『新型コロナと速効!漢方』(
青春出版社)などの著書もある、日高
徳洲会病院院長の井齋偉矢さんが語る。
「当院でもコロナ外来をしており、
漢方薬を処方しています。
今回
東北大学大学院で研究された
漢方薬の組み合わせは、主に第6波までのデルタ株のときに有効でした。オミクロン株に対しても、症状別に
漢方薬を組み合わせています」
速効性がないのでは”と偏見を持つ人も多い。
「
漢方薬は1千800年前から、歴史的に繰り返されてきた
感染症を抑え込むために
研究されてきたもので、速効性は十分にあります。にもかかわらず、副作用の起こる頻度は、
西洋薬に比べ格段に少ない。長期的に飲み続ける場合は、3カ月に1回ほどの血液検査は必要になりますが、コロナの場合、数日から1週間ほどの服用期間なので、副作用の心配はほとんど不要です」
もちろん、西洋薬と同様、
医療機関で処方されれば保険適用されるので、
処方をお願いするのもよいだろう。かかりつけ医が漢方を処方していないなど、
頼みにくい場合は「漢方のお医者さん探し」などのサイトで、
医療機関を探して受診するとよい。
「処方箋がなくても、ドラッグストアやネットでも市販されています。
保険は利きませんが、それでも、多くが500〜600円ほど。
西洋薬との併用は、ほとんどのケースで可能ですが、ごく一部、
禁忌になっている組み合わせがあるので、服用中の薬がある場合は、医師や薬剤師に相談しておきましょう」
今回は、そんな
漢方薬の“症状別処方例”をレクチャーしてもらった。
<処方例>
1回2.5g→1日3回×7日分
「
補中益気湯は、体の免疫力を上げてくれる
漢方薬。病原体の入口となる消化管の粘膜にある樹状細胞を活性化し、センサー感度を高めます。病原体が入ったときに、効率よく排除してくれるため、予防にも最適。
家族に濃厚
接触者がいれば、予防の意味も含めて家族全員で服用するといいでしょう。ただし、予防の場合は保険が適用されません。また、無症状だけれど陽性だったという人も、
補中益気湯で免疫力を高めておくとよいでしょう」
【2】汗をかかない発熱
<処方例>
各1回2.5g→1、2回分
「発熱していても汗をかいていない場合はこの組み合わせがよいでしょう。もともと
麻黄湯は、単独では風邪薬として使用します。オミクロンに感染した小児にはこれだけで十分効果的ですが、大人の場合は、さらに
麻黄湯の効果を高める越婢加朮湯をプラス。発汗するまで、1~2時間おきに服用します。もし1回で発汗したらそれで終了です」
【3】汗をかく発熱
<処方例>
各1回2.5g→3回分
「汗をかき始めたら、すでに免疫機能が働き始めている証拠。その免疫力を、さらに高めるための処方例です。2〜3時間おきに3回ほど服用すると、すっきりと体から熱が抜けるような効果が期待できます。インフルエンザで同様の症状が起きた場合も効果的です」
【4】倦怠感がひどい
<処方例>
1回2.5g→1日3回×7日分
↓症状が改善しない場合は
1回3g→1日3回×7日分
「
補中益気湯は、
慢性疲労症候群にも効能があるといわれ、倦怠感にはもっともポピュラーな処方。服用を始めて2〜3日たっても効果を感じられない場合は、人参養栄湯に切り替えましょう」
【5】湿った咳
<処方例>
各1回2.5g→1日4回(朝昼夜と寝る前) ×7日分
「痰が絡む湿った咳は、気管支炎の始まりなど、下気道の炎症が疑われます。竹筎温胆湯は痰が絡んだ咳に効果的で、インフルエンザにも対処可能。滋陰降火湯は軽い乾燥した上気道の咳ばかりでなく、その少し奥の炎症にも効果的です。症状が治ったら、途中でも飲み終わりになります」
【6】軽い咳が続く
<処方例>
〔東洋〕桂枝加厚朴杏仁湯
1回2.5g→1日3回×7日分
「西洋薬の咳止め薬は、単に咳を止めるだけで、咳によって排出されるべき痰が体内に残ってしまうという弱点があります。その点、
漢方薬が持っている抗炎症作用は、肺や気管支の炎症をピンポイントで鎮めてくれます。通常、2〜3日で改善が見込まれ、治ったら飲み終わりです」
【7】治ってきたけど少し症状が残っている
<処方例>
〔東洋〕桂麻各半湯
1回2.5g→1日3回×2、3日分
「“ほぼ治っているけれど、まだ少し症状が残っている”“症状は抜けているけど、念のために最後のダメ押しをしたい”そんな場合は、この2種類を同時に服用。いずれも2〜3日分で、元気になったら飲み終わりとなります」
ここで紹介したのは医療用漢方の服用例だが、もちろん市販品でも問題ない。また、症状が複数ある場合は、処方例をもとに漢方を組み合わせて服用してもよい。逆に、漢方を組み合わせる処方で片方しか手に入らない場合でも、効果が期待できるものもあるという。ただし、いずれの場合も医師や薬剤師の指示にしたがうこと。
漢方薬の正しい知識を身につけ、第8波を乗り切ろう。
北里大学などの研究グループが「葛根湯」などに含まれる生薬「麻黄」を用いた飲み薬による治験も始めている。
感染初期患者の重症化を防ぐ可能性がある。
■解熱剤を飲んだが熱が下がらない
「麻杏甘石湯」
「
感冒症状を和らげる効果があります。古くから気管支炎や気管支
ぜんそくに用いられた薬で、
解熱薬で効果がないときに補います。汗をよくかく、口の渇きがあるといった症状が処方の目安になります」
■咳や鼻水がつらい
「麻杏甘石湯」「大黄甘草湯」「清肺湯」
「大黄甘草湯は、便秘薬としても知られます。体力に関係なく使え、
『甘草』の成分が鼻水や咳を抑える役割を担います。清肺湯は、鼻詰まりや、
粘りが強く切れにくい痰を出しやすくし、咳の症状を抑えます」
日本
感染症学会の特別寄稿文の中でも紹介されている。
■味覚・嗅覚がない
「『胃苓湯』は胃の余分な水分を排出するとともに内臓の働きを促します。食欲の増進と、痰や鼻水など異物を出しやすくし、喉や鼻の通りを良くします。また、『
小柴胡湯加桔梗石膏』は、去痰・排膿作用の桔梗や滋養作用の人参など9つの生薬が配合され、
扁桃炎などによるのどの腫れや痛みの改善に効果があります。味覚・嗅覚がなく食が進まないときも、食事の通りを良くし、栄養分の補給になります」
■倦怠感、寒けや節々の痛みがある
「『
麻黄湯』は、発汗作用があり、体の熱や腫れ、あるいは痛みを発散し、風邪のひきはじめの寒けや発熱、節々の痛み、倦怠感の緩和に効果があります。
代謝が上がりすぎるので、若い方など体力に自信のある人におすすめ。高齢者や子供などはほぼ同じ作用の『葛根湯』を選ぶといいでしょう」
■無症状だが免疫力を高めたい
「『
補中益気湯』は、胃腸の消化・吸収機能を整えて、病気に対する抵抗力を高める薬として使われます。気力が湧かなかったり、疲れやすいときに処方します。しっかり睡眠と栄養を取った上で取り入れるといいです。『玉屏風散』は、屏風という言葉が入っている通り、外からの邪を食い止める意味が込められています。強壮薬のオウギや発汗で体内の毒を排出するボウフウといった生薬が配合されていて、体の免疫を立て直す効果があります。また気管支炎、慢性鼻炎、花粉症といったアレルギーを抑えます」
さらに呼吸器疾患がある人は予防として「清肺(排毒)湯」を飲んでおくといい。
後遺症にはオーダーメードの漢方を処方
「
漢方薬は食前に飲むと体内にめぐり効果が高まります。基本的には西洋薬と併用して問題ありません。ただし、がん治療や肝臓疾患の治療薬の『
インターフェロン・アルファ製剤』を処方されている方は、必ず医師と相談してください。もちろん、体質に合う漢方を処方した方が効き目が高いので、医師や薬剤師に相談して購入することをおすすめします」
また、新型コロナワクチンを接種する上で副反応が不安な人も多いだろう。接種した上腕の重みや背中や首の痛みなど体の違和感や不調を解消する
漢方薬はあるのか。
「ワクチン接種による局所の痛みは一時的なので、免疫力を高めるためにも経過観察します。ただし、頭痛や寝込んでしまうぐらいに熱でつらい症状が出ているときは
漢方薬を飲んで構いません。
東洋医学では、体内で免疫をつくるための
好転反応が出ていると考えます。解熱鎮痛剤よりも、生薬由来の
麻黄湯、葛根湯で発汗作用を促す方が体にも負担がありません」
最近は倦怠感や抜け毛、
味覚障害など後遺症を治療する段階で、漢方外来を訪ねる患者が増えているという。
ただし、
新型コロナウイルス自体が陰性になった後の処方になるので、「その人の体質や症状を考慮し、同じ症状でも個々に合わせた異なる
漢方薬を用いなければなりません」。
そこで以下に、サイトカインストームを防ぐ可能性のある方法を紹介します。
・板藍根(ばんらんこん)
実はこれは、去年の院長ブログで「コロナを防ぐ生薬」として紹介したことがある。
しかし、つい二日ほど前、当院で勤務する事務員(漢方に詳しい)の口からこの生薬の名前を聞いた。
「私の友人の
漢方医がコロナワクチンを打ちました。彼の漢方クリニックで働くスタッフも全員打ちました。彼、事前に発熱などの副反応が出る可能性を認識していたものですから、ワクチン接種の前後4日間、板藍根エキスを服用したんですね。すると、副反応がほとんどなかった、っていうんです。スタッフには、板藍根エキスを服用した人と服用しなかった人がいたのですが、やはり、服用した人は接種後ほぼ無症状でした。しかし服用しなかった人では2回目接種後に発熱(38度台)、のどの痛みなどが出ました。
さらに、さすが漢方の先生ですね、ワクチン接種後の発熱症状に対しても漢方的な対処法があって、副反応の出たスタッフに芎帰調血飲を処方しました。すると、2,3日できっちり解熱しました。
なぜ板藍根が効いたのか、知りたいですか?そのためには、漢方の理解が必要です。発熱、漢方的には「温病」と言いますが、どこに熱があるのか、その部位によって、衛、気、営、血の4パターンがあります。ざっと、衛は浅く、気は深く、営はさらに深く、血は最も深い。西
洋医学でいうウイルスは、気分証や営分証にすぐに影響します。これに対応するには、涼血解毒の働きをする板藍根がいい、と考えたわけです。分かりましたか?」
いや、まったく分からへん(笑)
分からないけど、とりあえず「効いた」という事実だけでいい。n数も小さいし、統計的にどうのこうのと言える
エビデンスではないけれど、何もヒントのない状況なのだから、empiric(経験的)な話だけでもありがたい。
中医学では
清熱解毒の働きがあると言われいます。中国ではインフルエンザやウイルス性の流行疾患が流行っている時に使用されます。
藿香は湿邪を除くのに良いですし、胃腸の働きを向上させる意味もあります。病院で処方してもらうのでなく普通に薬局薬店で購入するなら、胃苓湯よりも藿香正気散の方が良いです。小川先生の特別寄稿では藿香正気散は日本に無いと書かれていますが、病院で処方される医療用の
漢方薬には無いけれど薬局薬店用の
漢方薬では藿香正気散は普通に売っていますので、藿香の配合されていない胃苓湯よりも藿香正気散の方がずっと良いです。本来は蒸し暑いときのだるさや夏風邪に適応する
漢方薬です。味がわからない、体がだるい、食欲がない、軟便で胃がすっきりしない時に一番使いたい処方です。
なお、湿邪が存在するときに
麻黄湯や葛根湯で温め汗を出す治療をすることは良くありません。風邪や寒邪は温めて汗を出せば駆逐できますが湿邪は粘着性があり除去できず残ってしまいます。だから治らない。ゆっくり汗を出しながら治療するのに藿香正気散が適しています。場合によっては麻杏薏甘湯を合わせます。
大青葉はハーブとして入手できますが、無ければ板藍根でも良いかも知れません。大青葉と板藍根は同じ植物です。大青葉はホソバタイセイの葉で、板藍根はホソバタイセイの根ですから薬効は似ています。ただし、
清熱解毒作用は大青葉の方があります。しかし、お茶として飲むのには板藍根の方が甘くて飲みやすいです。
発熱、ほてり、口渇や喉痛があり清熱が必要になる場合には、金銀花、連翹が入っている銀翹散が良いです。咳や呼吸困難があれば麻杏甘石湯あるいは五虎湯を合わせ、大青葉や板藍根をお茶として併用するのが良いでしょう。
3種類の
漢方薬、ビタミンCを服用することと、湿布を痛みのある部分に貼るよう指示。
3日間は板藍根、藿香正気散、川芎茶調散、ビタミンCを。ところが4日目(同15日)に軽い頭痛と鼻炎が少々出てきたため、板藍根と
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)に替えた。5日目(同16日)には嗅覚が鈍った。2種類の
漢方薬を継続して飲み、嗅覚異常は10日間が過ぎる頃には元に戻った。
板藍根が新型コロナウィルスにも有効かもしれないと言った鐘南山院士は、広州の呼吸器系の大家で、誠実、謹厳そうな風貌も影響してか、この
SARSの時に全国的に有名になりました。
双黄連と連花清瘟(どちらも
漢方薬の名前)に続いて板藍根も突然人気になった。最近、鐘南山院士が板藍根が新型コロナウィルスの抑制に有効だと言った一言で、通販や薬局の板藍根が売り切れる状況が起きた。
10月15日に、白雲山の親会社広薬集団が、「鐘南山院士が、生体外研究で板藍根を複合したものが新型コロナウィルスに有効だと発見し、白雲山複合板藍根の研究成果を
マカオで産業化し、鐘南山院士が首席科学者となる」と発表した。
その影響で白雲山は10月16日に投資家が買いあさり、
ストップ高で取引を終えた。また白雲山だけでなく、板藍根顆粒を生産する香雪製薬も
ストップ高になり、他の関連株も大幅に上昇した。
だがあまりの騒ぎに、白雲山が10月18日に出した明確にするための説明では、報道された結論にはなお継続した研究が必要で、一定の不確定性がなお存在すると発表した。
薬局の王志軍
総経理は、数日前から客が急増し、多くは板藍根を買いに来たのだという。「我社には北京に26店舗あるが、現在は店内も倉庫も板藍根がない。最近4日で3000箱以上が売れた。メーカーに供給を頼んでいるが、早くても来週にならないと品物が届かない」
別の薬局の張マネージャーも、「北京に27店あるが、ほとんど在庫はない。
漢方薬の新型コロナウィルスに対する効能に疑う余地はなく、多くの人が板藍根は抗ウィルスの薬だと考えている。」
「流感の季節になり、みんな新型コロナウィルス肺炎の再燃に自ら対応する意識が高まっている。今月になってマスクの売れ行きが同期比で4割近く増えている」
叮当快薬局の和平里の店では、今月になって売価16.9元の10グラム20袋入りの板藍根顆粒がすでに5.2万件売れたという。「16日と17日は先週に比べると、板藍根の販売は15倍になった。マスクの販売も5倍近くに増えた」
2003年の
重症急性呼吸器症候群(
SARS)流行時には中国政府主導の
中医薬介入はなかった。フランクフルト大学からは甘草の成分であるグリチルリチンが
SARS複製を抑制するという論文が出た3)。一方,2009年の
新型インフルエンザの際の中国政府の動きは速かった。政府主導で連花清瘟カプセルをつくり,治療に当たった。構成生薬は連翹・金銀花・炙麻黄・炒苦杏仁・石膏・板藍根・錦馬貫衆・魚腥草・広藿香・大黄・紅景天・薄荷脳・甘草で,麻杏石甘湯と銀翹散を組み合わせた内容になっている。その使用経験は米国内科学会誌に掲載された4)。新興
感染症に対し,積極的に
中医診療を導入し,その結果を論文化する流れがここでできた。
COVID-19に対して,中国政府は国務院通知として,「新型冠状病毒肺炎診療方案」を発表している。3月3日に発表された最新の「試行第七版」でも
中医治療の詳細な
ガイドラインが示されている5)。今回は新たな処方である「清肺排毒湯」を開発し,積極的に現場で使うよう政府が主導した。既に2月19日には国家
中医薬管理局が,10省57病院で確認されたCOVID-19患者701例に対する「清肺排毒湯」の治療成績を発表している6)。それによると130例が治癒・退院し,51例は症状が消失,268例は改善,212例は悪化しなかった。結論として,COVID-19治療に優れた臨床効果を持つ,として開発の経緯が記載されている。学術的な評価は,いずれ英文学術誌に掲載されるであろう。
COVID-19に対する
中医薬として今回作られたのは「清肺排毒湯」である。軽症から重症まで幅広く用いるように書かれている。処方内容は,麻黄9g,炙甘草6g,杏仁9g,生石膏15~30g,桂枝9g,沢瀉9g,猪苓9g,白朮9g,茯苓15g,柴胡16g,黄芩6g,姜半夏9g,生姜9g,紫苑9g,冬花9g,射干9g,細辛6g,山薬12g,枳実6g,陳皮6g,藿香9gであり,石膏を15gにしても196gある。日本漢方では中国に比し,使う生薬量が少ないことは
貝原益軒の『養生訓』にも記載がある。構成生薬4種類の
麻黄湯は15.5g,構成生薬10種類の
十全大補湯は33gであることを考えると,清肺排毒湯をわが国に導入する場合には1/2ないし1/3量でもよいのかもしれない。
COVID-19に対する漢方治療活用の実際
日本の医療事情を考えると,重症化した患者の治療を漢方で行うのは現実的ではない。漢方が貢献できるとしたら,以下の2つの状況下においてであると考える。①
ハイリスク患者の感染予防,②軽症患者の重症化予防。
①の
ハイリスク患者の感染予防は,漢方治療で最も重視する「未病の治療」である。『
黄帝内経』の説く「気を増す」,すなわち生体防御能を増すことが漢方の役割と考える。
台湾の
ガイドラインにあるように,伝統医療治療の原則は個別化であり,それぞれの年齢,体力,疾患背景により異なる。そのため,漢方に詳しい医師の診断が必要であるが,逼迫した状況下においては,ある程度割り切って記載することをお許しいただきたい。
新型コロナウイルスの影響で、巷で注目されている板藍根ばんらんこん。読者の皆様にも愛用されている方はいらっしゃると思います。
一方で、「板藍根がコロナに効く!」と謳って含有製品を販売したことで薬機法に触れる事例も相次いでいます。日本で医薬品として承認されている板藍根製剤は存在しないため、効能効果を謳うことは法律上許されていません(下記リンク参照)。
板藍根に関する様々な研究が行われているのも事実です。ただし、中国や台湾で板藍根含有製剤が様々な治療に使われているという事実だけでは、科学的な効果の証明にはなりません。ここではあくまで学術的な検証として、私自身の見解も交えながらご紹介していきたいと思います。
板藍根に関する研究論文は、以下の2件が見つかりました。
どちらの論文にも、「板藍根がCOVID-19の治療薬候補として有望⇨今後の研究が望まれる」といった趣旨の内容が書かれています。板藍根をCOVID-19の治療(人体)に使用したわけではないので、現時点で臨床効果は証明されていません。
細胞を使用した実験で抗ウイルス作用(新型コロナではありません)が示唆された論文は存在しますが、人体に使用した時に同じ結果が出るとは限らないので、それだけで効果を謳う根拠にはなりません。
しかし、効果が否定された研究も存在せず、「調べる価値はあるけれど、科学的に効果があるかどうかは分からない」というのが現状だと考えています。
予防の漢方処方詳細。板藍根と魚腥草
みなさま
新型コロナウイルス感染症の第一波はなんとか躱せることが出来ましたでしょうか。当院に
おかかりの方々から頂いたご報告では、
PCR検査を受ける基準には満たずに、症状的には少々疑わしい方も何人かおられましたが、いずれの方も前回ご紹介した清肺排毒湯せいはいはいどくとうを服用されて大事には至りませんでした。清肺排毒湯は当院には存在しない処方でしたが、日本
感染症学会のホームページで紹介されたのを知り、国内にある生薬の在庫が少なくなっている中、なんとか探し出しそれを大急ぎで集めて清肺排毒湯を作ることができました。また抗ウイルス作用のある板藍根ばんらんこんなども早々に市場から消えかけていましたが、調達することが出来まして、後述する予防の漢方処方AとBの二つの漢方処方を再現することができました。科学的、医学的に有効性を判定するにはさらに細かい検証が必要なのですが、ともかく今みなさまが無事だということが何よりも物語っていると思います。
さて、ここでは「攻める予防2」で簡単に触れましたが、台湾国家
中医学研究所の
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療
ガイドラインに掲載されている2種類の漢方処方について、
感染症に対する漢方治療の観点から、少し詳しく説明しようと思います。
Aの漢方処方)黄耆、荊芥、甘草、生姜、板藍根、魚腥草、薄荷、桑葉
Bの漢方処方)荊防敗毒散加魚腥草板藍根けいぼうはいどくさんかぎょせいそうばんらんこん
以下の表にそれぞれの生薬の働きを記載しました。
A処方 B処方 作用 抗ウイルス作用
荊芥 ○ ○ 体表部の毒素の発散、消炎作用
防風 ○ 体表部の毒素の発散、気道粘膜の保護 ○
独活 ○ 体表の湿を取る
柴胡 ○ 清熱作用 ◎
桔梗 ○ 消炎排膿作用
川芎 ○ 気を巡らせる
茯苓 ○ 胃腸の保護
甘草 ○ ○ 構成生薬の働きを調整する
生姜 ○ ○ 防風の作用の増強
羌活 ○ 体表の湿を取る
前胡 ○ 清熱作用
薄荷 ○ ○ 荊芥や防風の補助
連翹 ○ 体表部の毒素の発散 ○
枳殻 ○ 消炎排膿作用
桑葉 ○ 荊芥や防風の補助
黄耆 ○ 気道粘膜の保護
板藍根 ○ ○ 抗ウイルス作用 ◎
魚腥草 ○ ○ 抗ウイルス作用 ◎
漢方では
感染症を病邪びょうじゃと呼ばれる外部からの攻撃ととらえ、その進行度合いにより、
感染症の経過を3つのステージに分けて考えています。ここで言う病邪は
新型コロナウイルスでもインフルエンザウイルスでも、通常の風邪ウイルスでも同じだと考えて下さい。第一期は病邪がまだ体表にいる段階で、皮膚や鼻の奥、咽のあたりにウイルスが付着し、そこより体の内部に侵攻して行こうとしている段階です。第三期とは病邪は既に身体の深部(裏)、主に消化管系にまで到達した状態を言います。第二期は第一期と第三期の間で半表半裏はんぴょうはんりと言い、胸腔内臓器や肝臓部のあたりに病邪が集まった状態だと捉えています。
3つのステージに分けて考えたと言うことは、治療も3つのステージで異なります。第一期の治療は体表に集まった病邪をそのままその部位より押し出してしまう方法です。代表的な処方は葛根湯(当院では風邪2号)で、服用して発汗させ、また皮膚の網目を広げることにより汗と共に体から排出してしまおうと考えたのです(発汗)。第二期では病邪は体表部を通過して身体の中心部あたりに存在するので、治療の原則は体の中で解毒しなければなりません(和法)。第一期と第二期の両ステージにまたがり病邪が存在することが多いので、両者の治療を併せもった性格の処方を使います。代表的な処方は
柴胡桂枝湯(当院の風邪5号や11号)または柴葛解肌湯(当院の風邪1号)になります。最後の第三期では体の深部の消化管まで入ったものは下から排出させるのが最も合理的であると考え、便を出す系統の処方が使われます(瀉法)。
古書に面白いたとえ話があります。「泥棒が玄関から家の中に入りかけている時には大きな声を出して追い出すがよい(発汗)。奥へ入って裏口近くまで行っていたら、これまた裏口より追い出すがよい(瀉法)。しかし、家の中にいる時は、うっかり騒ぐと居直ってどんな乱暴なまねをするかもわからないから危険である。この場合はうまく言い聞かせるなり、なにがしかの金を与えてなだめすかして、おだやかに帰らすがよい(和法)」
さて
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に当てはめて考えると、第一期は自覚症状が全くなく、気づいた時には第二期、第三期へと進行している場合が多いということです。しかも感染から肺症状が出るまでおよそ二週間かかるということは、第一期から第二期に移行するこの二週間の治療が、いかに大切かお分かりいただけると思います。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は主に呼吸器症状が問題となっていますので、感染の最終防御地点は呼吸器の入り口である気管入り口になります。漢方的には皮膚は肺が主ると言い、肺、気道、鼻、皮膚は全て同じ「肺」(「」内の肺は漢方の考える肺であり、解剖学的な肺ではありません)が治めていると考えています。そしてさらに科学的に考えても、発生学では咽の奥までは皮膚と起源が同じ外胚葉であることより、皮膚と咽の奥までは連続する同一の部分と考えられます。
Bの漢方処方は荊防敗毒散に板藍根と魚腥草を加えた17種類の生薬から構成されます。この漢方処方の基本である荊防敗毒散は敢えて分類すれば皮膚の処方と言えますが、この様な理由で咽の奥の部位でも皮膚の漢方が効果を発揮するのです。さてこの荊防敗毒散は15種類の生薬から構成されます。
荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、連翹(れんぎょう)は体内に侵入しようとするウイルスを追い出す作用があります。
桑葉(そうよう)、薄荷(はっか)、生姜(しょうきょう)は荊芥、防風、連翹の働きを強める作用があります。
桔梗(ききょう)と枳殻(きこく)には、抗炎症作用に加えてウイルス感染によりダメージを受けた部位より膿を押し出す作用があります。
柴胡(さいこ)と前胡(ぜんこ)は清熱効果と言い、炎症を抑え解毒作用があり、ウイルスが侵攻して第二期に移行しつつある時に効果を発揮します。
独活(どっかつ)と羌活(きょうかつ)はウイルスの攻撃により炎症を起こした部位の浮腫を取ります。
川芎(せんきゅう)は血流を改善することで感染部位を守る気(抵抗力)を落とさないようにします。
黄耆(おうぎ)は緩んだ粘膜の目をしっかりと閉めることで、外部からのウイルスの侵入を防ぎます。
上記の7つの効果で体を外邪から守る荊防敗毒散は、先ほどの泥棒の話に例えると、城に攻めてきた大勢の敵を追い払うために頑丈な門をしっかりと閉ざし(黄耆)、外壁の所で敵を追い返そう(荊芥、防風、連翹など)と戦い、またその過程で損傷した箇所を素早く修復(桔梗、枳殻、独活、羌活)し、防御が手薄になった箇所に兵員を回します(川芎)。そして少人数ではあっても万が一にも防御を破って侵入して来た敵は中で捉えてしまう(柴胡、前胡)処方だと考えて下さい。
そしてB処方の最大の目玉は、抗ウイルス作用のある金銀花きんぎんかを含む荊防敗毒散に板藍根ばんらんこん、魚腥草ぎょせいそうが追加されていることです。板藍根は
アブラナ科の植物の根を乾燥させたもので、漢方の抗ウイルス薬とも
抗生物質とも呼ばれており、主にウイルス
感染症に用いる生薬です。板藍根は2003年に
SARSウイルスが大流行した時に広く用いられ、その後の研究でも板藍根の抽出物が
SARSウイルスの増殖を抑制することが判明しました。一方、魚腥草、日本では重薬(
ドクダミ)も
SARSを抑制する作用があると言われ当時は台湾を中心に広く使われて来ました。もちろんこれらの生薬は突然に有効性が認められたわけではなく、実際に両生薬とも1960〜70年代頃から効果を確認する実験がされており、インフルエンザウイルスに対する抑制効果が報告されています。これらのことより、今回の
新型コロナウイルス感染症に対して台湾国家
中医学研究所が板藍根と魚腥草を予防薬に充分に配合したのだと思われます。
Aの漢方処方の特徴は、先ほどのB処方と比べて構成生薬の数も少なく、ただひたすら門を閉じてウイルスを追い返すだけの処方です。しかし構成生薬が少ないと言うことは、それだけ単独の成分が多いので(総量が同じ場合、A処方は8種類の生薬、B処方は17種類)、ウイルスを追い返す作用はA処方の方が強いのではないかと思います。ただし、A処方には手薄な部分に兵隊を回したり、攻撃を受けて破損した壁を直すなどの作用がありません。しかしこちらにも目玉である板藍根と魚腥草は含まれています。
さて上記のようなそれぞれの処方の特徴を踏まえて、AとBの漢方処方の使い分けを考えると、しっかりとした城壁があり兵員もある程度足りているタイプの方にはひたすら追い返す作用の強いAの漢方処方、少し城壁も防御も不安定なタイプの方はBの漢方処方が合っているかと思います。つまりある程度体ができている方、実証タイプの方はA処方、まだまだ体質改善中や虚証の方はB処方が合っているでしょう。またA処方の良い部分は普段の体質改善の漢方に加えて服用しやすいことです。これも構成生薬が少ないことの利点の一つです。
漢方薬が新型コロナ
感染症を「退治」 90%以上の患者に効果 中国